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Osamu Dazai: Run, Melos!(走れメロス)(2)


(2)


メロスは、単純たんじゅんおとこであった。


ものを、背負せおったままで、

のそのそおうしろに、はいってった。


すぐにかれは、

見張みはりのものに、とらえられた。

見張みはり:a guard)


メロスの荷物にもつから、短剣たんけんたので、

さわぎがおおきくなってしまった。

短剣たんけん:a short sword)


メロスは、おうまえされた。


「この短刀たんとうなにをするつもりであったか。え!」

おうディオニスは

しずかなこえった。


おうかおは、あおざめていた。


まちわるおうからすくうのだ」

と、メロスは、はっきりこたえた。


「おまえがか?」

おうは、馬鹿ばかにしたようにわらった。

「おまえはなにっているのだ。

 おまえに、わたしの孤独こどくがわかるはずがない」

孤独こどく:loneliness)


だまれ!」

とメロスは、おおきなこえかえした。

ひとこころうたがうのは、

 ひととして、もっとずかしいことだ。

ずかしい:shameful)


 おうは、おうおも人々ひとびとこころさえうたがっている」


うたがうのが、ただしいかんがかただと、わたしにおしえてくれたのは

 おまえたちだ。

 ひとこころしんじてはならない。

 人間にんげんは、もともと、自分じぶんのことばかりかんがえている。

 信用しんようしては、ならない」

おうは、いてつぶやき、

ほっと、ためいきをついた。

「わたしも、平和へいわのぞんでいるのだが」


「なんのための平和へいわだ。

 自分じぶん地位ちいまもるためか」

こんどは、メロスがわらった。

つみひところして、なに平和へいわだ」

つみい:innocent)


「だまれ、馬鹿者ばかものが」

おうは、さっとかおをあげてった。

くちでは、なんとでもえる。

 わたしには、

 ひとはらなかが、奥底おくそこまでえる。

 おまえも、

 ころされるまえになって、いてあやまっても、

 もうなにいてやらないぞ」


わたしは、ちゃんと覚悟かくごができている。

覚悟かくごする:to prepare oneself)


 いてあやまったりなど、しない。

 ただ、──」

いかけて、

メロスはあしもとに視線しせんとして、一瞬いっしゅんためらった。

(ためらう:to hesitate)


「ただ、わたしのことをおもってくれるなら、

 処刑しょけい三日みっかってください。

処刑しょけい:execution)


 たった一人ひとりいもうと結婚けっこんさせてやりたいのです。

 三日みっかのうちに、わたしむら結婚式けっこんしきをあげさせ、

 かならず、ここへかえってます」


「ばかな」とうと

おうひくわらった。

「とんでもないうそう。

 がした小鳥ことりかえってるというのか」


「そうです。かえってるのです」

メロスは、必死ひっしった。

必死ひっしで:desperately)


わたし約束やくそくまもります。

 わたしを、三日間みっかかんだけゆるしてください。

 いもうとが、わたしかえりをっている。


 そんなにわたししんじられないならば、

 よろしい、

 このまちにセリヌンティウスという石工せっこうがいます。

 わたし親友しんゆうだ。

 あれを、人質ひとじちとしてここにいてこう。


 わたしげてしまって、

 三日目みっかめ日暮ひぐれまでに、ここへかえってなかったら、

 あの友人ゆうじんを、ころしてください。

 たのむ、そうしてください」


それをいて

おうは、

残虐ざんぎゃく微笑ほほえみをかおかべた。

残虐ざんぎゃくな:cruel)


……生意気なまいきなことをう。

どうせかえってないにきまっている。

生意気なまいきな:cheeky)


このうそつきに、だまされたりをして、

はなしてやるのも面白おもしろい。

そうして身代みがわりのおとこを、三日目みっかめころしてやる。

身代みがわり:a substitute)


ひとは、これだからしんじられないのだ

と、かなしいかおをして、

その身代みがわりのおとこ処刑しょけいしてやるのだ。


なかの、正直者しょうじきものとかいうやつらに

うんとせつけてやる。……


ねがいを、いた。

 その身代みがわりをべ。

 三日目みっかめ日没にちぼつまでにかえってい。

日没にちぼつ:sunset)


 おくれたら、その身代みがわりを、かならころすぞ。


 ちょっと、おくれてかえってい。

 そうすれば、おまえのつみは、永遠えいえんにゆるしてやる」


「なに、なにをおっしゃる」


「はは。

 いのちが大事だじだったら、おくれてい。

 おまえのこころは、わかっているぞ」


メロスはくやしかった。

なにいたくなくなった。

くやしい:to be frustrated)


親友しんゆうセリヌンティウスは、

深夜しんやおうしろれてられた。


おうディオニスのまえで、

二人ふたりは、二年にねんぶりにった。


メロスは、とも事情じじょうをすべてかたった。


セリヌンティウスは、だまってうなずき、

メロスをつよきしめた。


ともともあいだは、それでよかった。


セリヌンティウスは、なわしばられた。


メロスは、すぐに出発しゅっぱつした。

初夏しょか夜空よぞらほしでいっぱいだった。

初夏しょか:early summer)


⇒ 走れメロス(3)

⇒ 走れメロス(1)