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Kenji Miyazawa: Gauche the Cellist セロ弾きのゴーシュ(4)


(4)


The third night as he was practicing, a Japanese raccoon dog came to him asking to practice the timpani to Gauche's cello accompaniment. As Gauche played "The Merry Master of a Coach Station", the tanuki hit the cello with a drum stick. The tanuki pointed out to Gauche that he played slowly despite trying to play speedily. The two left on good terms as the day broke.


つぎばんも、ゴーシュは

夜中よなかすぎまで、チェロをいて

つかれてみず一杯いっぱいんでいますと、

また、なにかが、をこつこつたたきます。


今夜こんやは、なにても

昨夜ゆうべのかっこうのように

はじめから、大声おおごえ怒鳴どなって、はらってやろう

おもって

コップをもったままっていました。

はらう:to drive away)


すると、がすこしいて

一匹いっぴきのたぬきのが、はいってきました。

(たぬき:a raccoon dog)


ゴーシュは、そこで

そのをもうすこひろひらくと

どんと、あしゆかをふんで、

いました。


「こら、たぬき、

 おまえは、たぬきじるというものをっているか?」

と、怒鳴どなりました。

(~しる:soup)


すると、たぬきのは、ぼんやりしたかおをして

きちんとゆかすわったまま

どうも、わからない

というようにくびをまげてかんがえていました。


が、しばらくたって

「たぬきじるって、ぼく、らない」

いました。


ゴーシュは、そのかお

おもわず、わらいそうになりましたが、

まだ我慢がまんして、無理むりこわかおをして、

いました。


「ではおしえてやろう。

 たぬきじるというのは

 おまえのような、たぬきを、

 キャベツやしおとまぜて、じっくりと

 おれさまが、うようにしたものだ」

いました。


すると、たぬきのは、また、ふしぎそうに

「だって、ぼくのおとうさんがね、

 ゴーシュさんは、とてもいいひとで、こわくないから

 ってなら

 とったよ」

いました。


そこで、ゴーシュも、とうとうわらしてしまいました。


なにならえとったんだ。

 おれは、いそがしいんだ。

 それにねむいんだよ」


たぬきのは、すぐに

元気げんきよく、こたえました。


「ぼくは、小太鼓こだいこたたくんだ。

 それで、チェロに、わせてもらって

 とわれたんだ」

小太鼓こだいこ:a small drum)


「どこにも小太鼓こだいこがないじゃないか」


「そら、これ」

たぬきのは、背中せなかから

みじかぼう二本にほんしました。


「それで、どうするんだ?」


「それじゃ、

 『愉快ゆかい馬車屋ばしゃや』をいてください」

馬車屋ばしゃや:a coachman)


「なんだ?

 愉快ゆかい馬車屋ばしゃやって、ジャズか?」

(ジャズ:jazz)


「ああ、これが楽譜がくふだよ」

たぬきのは、背中せなかから、また、一枚いちまい楽譜がくふをとりしました。


ゴーシュは

にとって、わらしました。


「ふう、へんきょくだなあ。

 よし、さあくぞ。

 おまえは、小太鼓こだいこたたくのか?」


ゴーシュは

たぬきのが、どうするのか、とおもって

ちらちら、そっちをながら

きはじめました。


すると、たぬきのは、ぼうをもって

チェロのしたほう

ぽんぽんたたきはじめました。


それが、なかなかうまいので

いているうちに、ゴーシュは

これは面白おもしろいぞ、とおもいました。


最後さいごまでいてしまうと

たぬきのは、しばらくくびをまげて

かんがえていました。


それから、やっと、

なにか、わかった、というようなかおをして

いました。


「ゴーシュさんは、

 この二番目にばんめげんをひくとき、

 すこおくれるね。

 なんだか、ぼく、つまずきそうになるよ」


ゴーシュは、はっとしました。


たしかに、そのげん

どんなに素早すばやいても

すこしたってからでないと

おとないようなが、ゆうべからしていたのでした。


「いや、そうかもしれない。

 このチェロが、わるいんだよ」

とゴーシュは

かなしそうにいました。


すると、たぬきは、どくそうにして

また、しばらくかんがえていましたが

「どこがわるいんだろうなあ。

 では、もう一度いちどいてくれますか?」


「いいよ。くよ」

ゴーシュは、はじめました。


たぬきのは、

さっきのように、とんとんたたきながら、

時々ときどきあたまをまげて、チェロにみみをつけました。


そして、最後さいごまでると

今夜こんやも、またひがしが、ぼうとあかるくなっていました。


「ああ、けた。どうもありがとう」

たぬきのは、大変たいへんあわてて

楽譜がくふぼう背中せなか背負せおって

ゴムで、ぱちんと、とめて

おじぎを、二三度にさんどすると

いそいでそとってしまいました。


ゴーシュは、ぼんやりして、しばらく、

ゆうべ、こわれたまどからはいってくるかぜっていましたが、

まちくまでねむって、元気げんきをとりもどそうと

いそいで、よこになりました。