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The third night as he was practicing, a Japanese raccoon dog came to him asking to practice the timpani to Gauche's cello accompaniment. As Gauche played "The Merry Master of a Coach Station", the tanuki hit the cello with a drum stick. The tanuki pointed out to Gauche that he played slowly despite trying to play speedily. The two left on good terms as the day broke.
次の晩も、ゴーシュは
夜中すぎまで、チェロを弾いて
つかれて水を一杯飲んでいますと、
また、何かが、戸をこつこつ叩きます。
今夜は、何が来ても
昨夜のかっこうのように
はじめから、大声で怒鳴って、追い払ってやろう
と思って
コップをもったまま待っていました。
すると、戸がすこし開いて
一匹のたぬきの子が、はいってきました。
ゴーシュは、そこで
その戸をもう少し広く開くと
どんと、足で床をふんで、
言いました。
「こら、たぬき、
おまえは、たぬき汁というものを知っているか?」
と、怒鳴りました。
すると、たぬきの子は、ぼんやりした顔をして
きちんと床へ座ったまま
どうも、わからない
というように首をまげて考えていました。
が、しばらくたって
「たぬき汁って、ぼく、知らない」
と言いました。
ゴーシュは、その顔を見て
思わず、笑いそうになりましたが、
まだ我慢して、無理に恐い顔をして、
言いました。
「では教えてやろう。
たぬき汁というのは
おまえのような、たぬきを、
キャベツや塩とまぜて、じっくりと煮て
俺さまが、食うようにしたものだ」
と言いました。
すると、たぬきの子は、また、ふしぎそうに
「だって、ぼくのお父さんがね、
ゴーシュさんは、とてもいい人で、こわくないから
行って習え
と言ったよ」
と言いました。
そこで、ゴーシュも、とうとう笑い出してしまいました。
「何を習えと言ったんだ。
おれは、忙しいんだ。
それに眠いんだよ」
たぬきの子は、すぐに
元気よく、答えました。
「ぼくは、小太鼓を叩くんだ。
それで、チェロに、合わせてもらって来い
と言われたんだ」
「どこにも小太鼓がないじゃないか」
「そら、これ」
たぬきの子は、背中から
短い棒を二本出しました。
「それで、どうするんだ?」
「それじゃ、
『愉快な馬車屋』を弾いてください」
「なんだ?
愉快な馬車屋って、ジャズか?」
「ああ、これが楽譜だよ」
たぬきの子は、背中から、また、一枚の楽譜をとり出しました。
ゴーシュは
手にとって、笑い出しました。
「ふう、変な曲だなあ。
よし、さあ弾くぞ。
おまえは、小太鼓を叩くのか?」
ゴーシュは
たぬきの子が、どうするのか、と思って
ちらちら、そっちを見ながら
弾きはじめました。
すると、たぬきの子は、棒をもって
チェロの下の方を
ぽんぽん叩きはじめました。
それが、なかなかうまいので
弾いているうちに、ゴーシュは
これは面白いぞ、と思いました。
最後まで弾いてしまうと
たぬきの子は、しばらく首をまげて
考えていました。
それから、やっと、
何か、わかった、というような顔をして
言いました。
「ゴーシュさんは、
この二番目の弦をひくとき、
少し遅れるね。
なんだか、ぼく、つまずきそうになるよ」
ゴーシュは、はっとしました。
たしかに、その弦は
どんなに素早く弾いても
少したってからでないと
音が出ないような気が、ゆうべからしていたのでした。
「いや、そうかもしれない。
このチェロが、悪いんだよ」
とゴーシュは
かなしそうに言いました。
すると、たぬきは、気の毒そうにして
また、しばらく考えていましたが
「どこが悪いんだろうなあ。
では、もう一度、弾いてくれますか?」
「いいよ。弾くよ」
ゴーシュは、はじめました。
たぬきの子は、
さっきのように、とんとん叩きながら、
時々、頭をまげて、チェロに耳をつけました。
そして、最後まで来ると
今夜も、また東が、ぼうと明るくなっていました。
「ああ、夜が明けた。どうもありがとう」
たぬきの子は、大変あわてて
楽譜や棒を背中に背負って
ゴムで、ぱちんと、とめて
おじぎを、二三度すると
急いで外へ出て行ってしまいました。
ゴーシュは、ぼんやりして、しばらく、
ゆうべ、こわれた窓から入ってくる風を吸っていましたが、
町へ出て行くまで眠って、元気をとり戻そうと
急いで、横になりました。