(3)
メロスはその夜、
少しも眠らずに、
遠い村への道を急いだ。
村へ到着したのは、
翌日の午前だった。
太陽は既に高く昇って、
村人たちは
野に出て仕事をはじめていた。
メロスの十六の妹も、
きょうは兄の代わりに羊の群の番をしていた。
(番:a watch)
妹は、
疲れはてて歩いて来る
兄の姿を見て驚いた。
そうして、心配そうに兄に尋ねた。
「なんでもない」
メロスは無理に笑おうとした。
「街に用事を残して来た。
また、すぐ街に行かなければならない。
あす、おまえの結婚式を挙げる。
早いほうがよいだろう」
妹は、ほほをあかくした。
「うれしいか。
きれいな衣裳も買って来た。
さあ、これから行って、
村の人たちに知らせて来い。
結婚式は、あすだと」
メロスは、また、よろよろと歩き出し、
家へ帰って
客を迎える準備をすると、
まもなく床に倒れ、
息もしないほど深い眠りに落ちてしまった。