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Kenji Miyazawa: Gauche the Cellist セロ弾きのゴーシュ(6)


(6)


The Sixth Symphony concert was a great success. In the dressing room, the conductor asked a surprised Gauche to play an encore. Upon hearing the applauding audience, Gauche thought he was being made a fool of and again played "Tiger Hunt in India". Afterward, everybody in the dressing room congratulated him.


それから、六日目むいかめばんでした。


楽団がくだんひとたちは

まちのホールのうらにある、ひかえしつへ、

みんな自分じぶん楽器がっきをもって、

舞台ぶたいからかえってました。

(ホール:a hall)
(ひかえしつ:green room)
舞台ぶたい:a stage)


交響曲こうきょうきょく第六番だいろくばん上手うま演奏えんそうえたのです。


ホールでは、拍手はくしゅおと

まだあらしのようにっています。


指揮者しきしゃは、ポケットへれて

拍手はくしゅなんか、どうでもいい、というように

のそのそ、みんなのあいだあるきまわっていましたが、

じつは、とてもよろこんでいるのです。


みんなは

たばこをくわえて

マッチをすったり

楽器がっきをケースへれたりしました。


ホールは、まだ、拍手はくしゅっています。


いや、拍手はくしゅおとは、段々だんだんおおきくなってきます。


おおきなしろいリボンをむねにつけた司会者しかいしゃがはいってました。


「アンコールに、

 なにか、みじかいものを、おねがいできませんか」

(アンコール:an encore)


すると、指揮者しきしゃ

おこったようにこたえました。


「それは、いけません。

 こういうおおきなきょくのあとでは

 なにをやっても

 上手うまかないんです」


「では、わりに、ちょっと挨拶あいさつしてください」


「だめだ。

 おい、ゴーシュくん

 なにいてやってくれ」


「わたしが、ですか?」

ゴーシュは、おどろきました。


きみだ、きみだ」

バイオリンのひとが、

いきなりかおをあげて、いました。


「さあ、ってくれ」

指揮者しきしゃいました。


みんなも、チェロを無理むりにゴーシュにたせて

をあけると

舞台ぶたいへと、ゴーシュをしてしまいました。


ゴーシュが、チェロをって、舞台ぶたいると

みんなの拍手はくしゅ一層いっそうおおきくなりました。


わあとさけんだひともいました。


「どこまで、ひと馬鹿ばかにするんだ。

 よしていろ。

 インドの虎狩とらがりをひいてやるから」


ゴーシュは、すっかりちついて

舞台ぶたいのまんなかました。


それから、あのねこたときのように

まるでおこったぞうのようないきおいで

虎狩とらがりをきました。


ところが、客席きゃくせきひとたちは

しずかに、一生懸命いっしょうけんめいいています。


ゴーシュは、どんどんきました。


ねこが、かおから、ぱちぱち火花ひばなしたところも

ぎました。


からだ何度なんどもぶつけたところも

ぎました。


きょくわると

ゴーシュは、もう、

みんなのほうなどようともせず

ちょうど、あのときねこおなじように

すばやくチェロをもって、楽屋がくやみました。

楽屋がくや:green room)


すると楽屋がくやでは

指揮者しきしゃ仲間なかまが、みんな

なんはなしもせずに、しずかにすわっているのです。


ゴーシュは、

みんなのあいだをさっさとあるいてって

こうの椅子いすへ、どっかりとすわりました。


すると、みんなが一度いちど

かおをこっちへけて、ゴーシュをましたが

やはり、まじめで

べつにわらっているようでもありませんでした。


今夜こんやへんばんだなあ」

ゴーシュはおもいました。


ところが、指揮者しきしゃっていました。


「ゴーシュくん

 よかったぞ。

 あんなきょくだけど

 ここでは、みんな、かなり本気ほんきいてたぞ。


 一週間いっしゅうかん十日とおかあいだ

 ずいぶん上手じょうずになったな。

 十日前とおかまえとくらべたら、まるであかぼう兵隊へいたいだ。

 やろうとおもえば、いつでも、やれたんじゃないか、きみ


仲間なかまも、みんながって

「よかったぜ」

とゴーシュにいました。


「いや、からだ丈夫じょうぶだから

 こんなこともできるんだよ。

 普通ふつうひとなら、んでしまうからな」

指揮者しきしゃこうでっていました。



***


When he came back to his house, he opened the window where the cuckoo had hit its head and felt sorry for his actions.


そのばんおそく、ゴーシュは

自分じぶんのうちへかえってました。


そして、また

みずをがぶがぶみました。


それからまどをあけて

いつか、かっこうのんでったとおくのそらながめながら

「ああ、かっこう。

 あのときは、すまなかった。

 おれはおこったんじゃなかったんだ」

いました。

(すまない:to be sorry)


Kenji Miyazawa: Gauche the Cellist セロ弾きのゴーシュ(5)


(5)


The fourth night as he was practicing, a mother mouse came in with her baby, asking him to heal her sick son. When Gauche told her that he wasn't a doctor, she replied that the sound of his music had already healed a number of animals. Gauche put the sick little mouse into a hole of his cello and played a rhapsody. When Gauche finished, the little mouse became fine and was able to run around. The mother mouse cried and thanked Gauche, and left.


つぎばんも、ゴーシュはよるあいだずっとチェロをいて

がたちかくになり

おもわず、つかれて楽譜がくふをもったまま、うとうとしていますと

まただれかがをこつこつとたたきます。


それも、ほとんどこえないほどのちいさなおとでしたが

毎晩まいばんのことなので

ゴーシュは、すぐにいて

「おはいり」といました。


すると、のすきまからはいってたのは

一匹いっぴきねずみでした。

ねずみ:a field mouse)


そして、大変たいへんちいさな子供こどもをつれて

ちょろちょろとゴーシュのまえあるいてきました。


そのねずみの子供こどもは、とてもちいさくて、

しゴムくらいしかないので

ゴーシュはおもわず、わらいました。


するとねずみは

なにわらわれたのだろう

というように、きょろきょろしながら

ゴーシュのまえて、

あおくり一粒ひとつぶまえにおいて

ちゃんと、おじぎをして

いました。

(きょろきょろする:to look around)
くり:chestnut)


先生せんせい、この病気びょうきにそうです。

 先生せんせいなんとか、なおしてやってください」

なおす:to cure)


「おれは医者いしゃじゃないぞ」

ゴーシュは、すこしおこっていました。


するとねずみのおかあさんは

したいて、しばらくだまっていましたが

また、おもったようにいました。


先生せんせい、それはうそです、

 先生せんせい毎日まいにち

 あんなに上手じょうず

 みんなの病気びょうきなおしているじゃありませんか」


なにっているのか、わからんよ」


「だって先生せんせい

 先生せんせいは、うさぎのおばあさんも、なおしました。

 たぬきのおとうさんも、なおしました。

 あんな意地悪いじわるなふくろうまで、なおしたじゃないですか。

(ふくろう:an owl)


 それなのに、このだけ、たすけてくれないなんて

 ひどいとおもいます」


「おいおい、それはなにかの間違まちがいだよ。

 おれは、ふくろうの病気びょうきなんか

 なおしてやったことはないからな。

 まあ、たぬきの

 ゆうべて、楽器がっき練習れんしゅうをしてったがね」


ゴーシュは、あきれて

そのねずみをおろしてわらいました。


するとねずみのおかあさんは

きだしてしまいました。


「ああ、この

 どうせ病気びょうきになるなら

 もっとはやくなればよかった。

 さっきまで、あれほど、ごうごうといていらっしゃったのに、

 病気びょうきになると、すぐに、ぴたっとおとがとまって

 もうあとは、いくら、おねがいしても

 いてくださらないなんて。

 なん不幸ふしあわせな子供こどもだろう」


ゴーシュは、びっくりしてさけびました。


なんだと?

 ぼくがチェロをけば

 ふくろうや、うさぎの病気びょうきがなおると。

 どういうわけだ。それは」


ねずみは、片手かたてでこすりながらいました。


「はい、

 このあたりのものは

 病気びょうきになると、みんな先生せんせいのおうちの床下ゆかしたはいって

 なおすのです」


「するとなおるのか?」


「はい。

 体中からだじゅう、とてものまわりがよくなって

 大変たいへんいい気持きもちで

 すぐなおかたもいれば

 うちへかえってからなおかたもいます」


「ああそうか。

 おれのチェロのおとが、ごうごうひびくと、

 それがからだ刺激しげきあたえて

 おまえたちの病気びょうきなおるというのか。


 よし。わかったよ。やってやろう」


ゴーシュは、ギウギウとげんわせて

それから、いきなり、ねずみの子供こどもをつまんで

チェロのあなからなかれてしまいました。

あな:f-hole)


「わたしも一緒いっしょについてきます。

 どこの病院びょういんでも、そうですから」


かあさんのねずみは

必死ひっしになって、チェロにびつきました。


「おまえも、はいるのか」

ゴーシュは

かあさんのねずみをチェロのあなかられようとしましたが

かお半分はんぶんしかはいりませんでした。


ねずみは、ばたばたしながら

なか子供こどもさけびました。


「おまえ、大丈夫だいじょうぶか?

 ちるときは、いつもおしえるように

 あしをそろえて、うまくちたか?」


「うん。うまくちた」


子供こどものねずみは、ちいさなこえ

チェロのなかから返事へんじをしました。


大丈夫だいじょうぶだ。

 だから、くな」


ゴーシュは、おかあさんのねずみを

したにおろして

それからゆみをとって

なんとかラプソディとかいうものを

ごうごう、があがあ、きました。

(ラプソディ:rhapsody)


すると、おかあさんのねずみは

心配しんぱいそうに

そのおといていましたが

とうとう、我慢がまんできなくなったようで

「もう十分じゅうぶんです。

 どうかしてやってください」

いました。


「なあんだ、これでいいのか」

ゴーシュはチェロをかたむけて

あなのところにをあてて、っていましたら

まもなく、子供こどものねずみがてきました。


ゴーシュは、だまって、それをおろしてやりました。


ると、すっかりをつぶって

ぶるぶるぶるぶる、ふるえていました。


「どうだったの?

 気分きぶんは、いいかい?」


子供こどものねずみはすこしも返事へんじをしないで

まだ、しばらくをつぶったまま

ぶるぶるぶるぶる、ふるえていましたが

きゅうに、きあがってはしりだしました。


「ああ、よくなったんだ。

 ありがとうございます。

 ありがとうございます」


かあさんのねずみも

一緒いっしょはしっていましたが、

まもなく、ゴーシュのまえ

何度なんども、おじぎをしながら

「ありがとうございます、ありがとうございます」

十回じっかいぐらいいました。


ゴーシュは、なにか、かわいそうになって

「おい、おまえたちは

 パンは、べるのか?」

と、ききました。


するとねずみは、びっくりしたように

きょろきょろ、あたりをまわしてから

「いえ、もう、パンというものは

 小麦こむぎこなをねってから、してつくるもので

 ふっくらと、ふくらんでいて

 美味おいしいものだそうですが、

 そうでなくても

 わたしたちは、けっして、おうちの戸棚とだなへなどはいったことはありませんし

 病気びょうきなおしてもらっておきながら、

 それをりになんてけません」

いました。


「いや、そのことではないんだ。

 ただ、べるのかと、きいたんだ。

 ではべるんだな。

 ちょっとてよ。

 そのからだわる子供こどもへ、やるからな」


ゴーシュはチェロをゆかいて

戸棚とだなのパンをちぎって

ねずみのまえきました。


ねずみは、

いたり、わらったり、おじぎをしたりしてから

大事だいじそうに、それをくわえて

子供こども一緒いっしょそときました。


「あああ。

 ねずみとはなしをするのも、なかなかつかれるなあ」

ゴーシュは、よこになると

すぐ、ぐうぐう、ねむってしまいました。


Kenji Miyazawa: Gauche the Cellist セロ弾きのゴーシュ(4)


(4)


The third night as he was practicing, a Japanese raccoon dog came to him asking to practice the timpani to Gauche's cello accompaniment. As Gauche played "The Merry Master of a Coach Station", the tanuki hit the cello with a drum stick. The tanuki pointed out to Gauche that he played slowly despite trying to play speedily. The two left on good terms as the day broke.


つぎばんも、ゴーシュは

夜中よなかすぎまで、チェロをいて

つかれてみず一杯いっぱいんでいますと、

また、なにかが、をこつこつたたきます。


今夜こんやは、なにても

昨夜ゆうべのかっこうのように

はじめから、大声おおごえ怒鳴どなって、はらってやろう

おもって

コップをもったままっていました。

はらう:to drive away)


すると、がすこしいて

一匹いっぴきのたぬきのが、はいってきました。

(たぬき:a raccoon dog)


ゴーシュは、そこで

そのをもうすこひろひらくと

どんと、あしゆかをふんで、

いました。


「こら、たぬき、

 おまえは、たぬきじるというものをっているか?」

と、怒鳴どなりました。

(~しる:soup)


すると、たぬきのは、ぼんやりしたかおをして

きちんとゆかすわったまま

どうも、わからない

というようにくびをまげてかんがえていました。


が、しばらくたって

「たぬきじるって、ぼく、らない」

いました。


ゴーシュは、そのかお

おもわず、わらいそうになりましたが、

まだ我慢がまんして、無理むりこわかおをして、

いました。


「ではおしえてやろう。

 たぬきじるというのは

 おまえのような、たぬきを、

 キャベツやしおとまぜて、じっくりと

 おれさまが、うようにしたものだ」

いました。


すると、たぬきのは、また、ふしぎそうに

「だって、ぼくのおとうさんがね、

 ゴーシュさんは、とてもいいひとで、こわくないから

 ってなら

 とったよ」

いました。


そこで、ゴーシュも、とうとうわらしてしまいました。


なにならえとったんだ。

 おれは、いそがしいんだ。

 それにねむいんだよ」


たぬきのは、すぐに

元気げんきよく、こたえました。


「ぼくは、小太鼓こだいこたたくんだ。

 それで、チェロに、わせてもらって

 とわれたんだ」

小太鼓こだいこ:a small drum)


「どこにも小太鼓こだいこがないじゃないか」


「そら、これ」

たぬきのは、背中せなかから

みじかぼう二本にほんしました。


「それで、どうするんだ?」


「それじゃ、

 『愉快ゆかい馬車屋ばしゃや』をいてください」

馬車屋ばしゃや:a coachman)


「なんだ?

 愉快ゆかい馬車屋ばしゃやって、ジャズか?」

(ジャズ:jazz)


「ああ、これが楽譜がくふだよ」

たぬきのは、背中せなかから、また、一枚いちまい楽譜がくふをとりしました。


ゴーシュは

にとって、わらしました。


「ふう、へんきょくだなあ。

 よし、さあくぞ。

 おまえは、小太鼓こだいこたたくのか?」


ゴーシュは

たぬきのが、どうするのか、とおもって

ちらちら、そっちをながら

きはじめました。


すると、たぬきのは、ぼうをもって

チェロのしたほう

ぽんぽんたたきはじめました。


それが、なかなかうまいので

いているうちに、ゴーシュは

これは面白おもしろいぞ、とおもいました。


最後さいごまでいてしまうと

たぬきのは、しばらくくびをまげて

かんがえていました。


それから、やっと、

なにか、わかった、というようなかおをして

いました。


「ゴーシュさんは、

 この二番目にばんめげんをひくとき、

 すこおくれるね。

 なんだか、ぼく、つまずきそうになるよ」


ゴーシュは、はっとしました。


たしかに、そのげん

どんなに素早すばやいても

すこしたってからでないと

おとないようなが、ゆうべからしていたのでした。


「いや、そうかもしれない。

 このチェロが、わるいんだよ」

とゴーシュは

かなしそうにいました。


すると、たぬきは、どくそうにして

また、しばらくかんがえていましたが

「どこがわるいんだろうなあ。

 では、もう一度いちどいてくれますか?」


「いいよ。くよ」

ゴーシュは、はじめました。


たぬきのは、

さっきのように、とんとんたたきながら、

時々ときどきあたまをまげて、チェロにみみをつけました。


そして、最後さいごまでると

今夜こんやも、またひがしが、ぼうとあかるくなっていました。


「ああ、けた。どうもありがとう」

たぬきのは、大変たいへんあわてて

楽譜がくふぼう背中せなか背負せおって

ゴムで、ぱちんと、とめて

おじぎを、二三度にさんどすると

いそいでそとってしまいました。


ゴーシュは、ぼんやりして、しばらく、

ゆうべ、こわれたまどからはいってくるかぜっていましたが、

まちくまでねむって、元気げんきをとりもどそうと

いそいで、よこになりました。


Kenji Miyazawa: Gauche the Cellist セロ弾きのゴーシュ(3)


(3)


The second night as he was practicing, a cuckoo came to him asking to practice scales to Gauche's cello accompaniment. Gauche repeatedly played "cuckoo, cuckoo", accompanied by the bird. Eventually, he felt that the cuckoo's song was better than his cello. Gauche chased the bird away, causing it to fly into his window, hitting its head.


つぎばんも、ゴーシュが、また

くろいチェロのケースをかついで

かえってきました。


そしてみずをごくごくむと

また、まえばんおなじように

ぐんぐん、チェロをきはじめました。


十二時じゅうにじぎて、一時いちじもすぎ、二時にじもすぎても

ゴーシュは、まだ、やめませんでした。


それから、もう何時なんじなのかも、わからず

いていますと

だれかが、天井てんじょうをこつこつとたたいています。


ねこ、またたのか」


ゴーシュが、さけびますと

いきなり、天井てんじょうあなから

ぽろんとおとがして

一羽いちわ灰色はいいろとりりてました。


ゆかへとまったのをると

それは、かっこうでした。

(かっこう:a cuckoo)


とりまでるなんて。

 なんようだ」

ゴーシュがいました。


音楽おんがくおしえてほしいのです」

かっこうは、いました。


ゴーシュは、わらって

音楽おんがくだと。

 おまえのうたは、かっこう、かっこうというだけじゃないか」


すると、かっこうが、とても真面目まじめ

「ええ、そうなんです。

 けれども、それが、むずかしいんです」

いました。


「むずかしいもんか。

 おまえたちのは、ただ、たくさんくだけじゃないか。

 かたなんか、みんなおなじじゃないか」


「そんなことは、ありません。

 たとえば、かっこうと、こうくのと

 かっこうと、こうくのとでは、

 いていても、全然ぜんぜんちがうでしょう」


ちがわないね」


「では、あなたには、わからないんです。

 わたしたちの仲間なかまなら

 かっこうと一万回いちまんかいけば、

 一万回いちまんかい、みんなちがうんです」


おれには、わからない。

 そんなに、わかってるなら、

 なにも、おれのところへなくてもいいじゃないか」


「ところが、わたし

 ドレミファを正確せいかくりたいんです」


「ドレミファなんて、おまえたちには、関係かんけいないだろう」


「いいえ、

 外国がいこくまえに、ぜひ、りたいんです」


「そんなこと、おれには関係かんけいない」


先生せんせい、どうか、ドレミファをおしえてください。

 わたしは、一緒いっしょにうたいますから」


「うるさいなあ。

 じゃあ、三回さんかいだけいてやるから

 すんだら、さっさとかえるんだぞ」


ゴーシュはチェロをげて

ボロンボロンとげんわせてから

ドレミファソラシドと、きました。


すると、かっこうは、あわてて

はねを、ばたばた、させました。


「ちがいます、ちがいます。

 そんなんじゃないんです」


「うるさいなあ。

 では、おまえ、やってごらん」


「こうですよ」

かっこうは、

からだまえげて

しばらく、かまえていましたが

それから、

「かっこう」と、一回いっかいなきました。


なんだい。それがドレミファか?

 それじゃ、おまえたちには、

 ドレミファも交響曲こうきょうきょく第六番だいろくばんおなじなんだな」


「それはちがいます」


「どうちがうんだ」


「むずかしいのは、これをたくさんつづけることなんです」


「つまり、こうだろう」

ゴーシュは、またチェロをとって、

かっこう、かっこう、かっこう、かっこう、かっこうと

つづけてきました。


すると、かっこうは、大変たいへんよろこんで

途中とちゅうから

かっこう、かっこう、かっこう、かっこうと

一緒いっしょさけびました。


それも、もう一生懸命いっしょうけんめいからだげて、いつまでもさけぶのです。


ゴーシュは、とうとういたくなって

「こら、いい加減かげんにしないか」

いながら、めました。

(いい加減かげんにしろ:That's enough.)


すると、かっこうは

残念ざんねんそうなかおをして

まだ、しばらく、いていましたが

やっと

「……かっこう、かくう、かっかっかっかっか」

ってやめました。


ゴーシュが、すっかりおこってしまって、

「こら、とり

 ようんだらかえれ」

いました。


「どうか、もう一度いちどいてください。

 あなたのは、ただしいようだけれども、すこちがうんです」


なんだと。

 おれが、おまえおしえてもらっているわけじゃないぞ。

 かえれ」


「どうか、もう一度いちどだけ、おねがいします。

 どうか」

かっこうは、あたま何度なんども、げました。


「では、これが最後さいごだよ」


ゴーシュは

ゆみをかまえました。

ゆみ:bow)


かっこうは、「くっ」と、ひとついきをして

「では、なるべく、ながくおねがいします」

って

また、ひとつ、おじぎをしました。


こまるなあ……」

と、ゴーシュは、にがわらいしながら

きはじめました。

(にがわらいする:to smile bitterly)


すると、かっこうは、また一生懸命いっしょうけんめい

「かっこう、かっこう、かっこう」

と、からだげてさけびました。


ゴーシュは、

はじめは、はらっていましたが

いつまでも、つづけていているうちに

ふっと、なんだか、

これは、とりほうが、ほんとうのただしいドレミファかもしれない

というがしてきました。


けばくほど

かっこうのほうが、ただしいようながするのでした。


「えい!

 こんな馬鹿ばかなことをしていたら

 おれはとりになってしまうじゃないか」

と、ゴーシュは、いきなりチェロをやめました。


すると、かっこうは

あたまつよたたかれたように

ふらふらっとして

それから、また、さっきのように

「かっこう、かっこう、かっこう、かっかっかっかっかっ」

ってやめました。


それから、ゴーシュをると

「なぜ、やめたんですか。

 ぼくたちなら、どんなやつでも

 のどからるまではさけぶんですよ」

いました。


なに生意気なまいきな。

 こんな馬鹿ばかなことをいつまでも、していられるか。

 もうけ。

 ろ。よるがあけそうじゃないか」


ゴーシュは、まどゆびさしました。


ひがしのそらが

ぼうっと銀色ぎんいろになっています。


「では、太陽たいようるまで。

 どうか、もう一度いちど

 ちょっとですから」


かっこうは、また、あたまげました。


だまれっ。

 いい加減かげんにしろ。

 このばかどりめ。

 かんのなら、いて朝飯あさめしってしまうぞ」

ゴーシュは、どんとあしゆかをふみました。


すると、かっこうは、びっくりしたように

いきなり、まどかってちました。


そして、ガラスに、はげしく、ぶつかると

ばたっとしたちました。


なんだ、ガラスへ……

 馬鹿ばかだなあ」


ゴーシュは、あわててって

まどをあけようとしましたが

このまどは、そんなに簡単かんたんくようなまどではありませんでした。


ゴーシュが、まどけようとしていると、

また、かっこうが

ばっと、ぶつかってしたちました。


ると、くちばしからすこています。

(くちばし:a bill; a beak)


いまけてやるからっていろ」

ゴーシュが、やっとすこしだけまどをあけたとき、

かっこうはきあがって

今度こんどこそは、絶対ぜったいに、というように

じっとまどこうのひがしそらをみつめて、

いきおいよく、ぱっとびたちました。


もちろん、今度こんどは、まえよりひどくガラスにたって

かっこうは、したちたまま、しばらくうごきません。


つかまえてドアからばしてやろうと

ゴーシュがしましたら

いきなり、かっこうは、をひらいて

げました。


そして、またガラスへかって

ぼうとするのです。


ゴーシュは、おもわず、あしげて

まどを、ばっと、けりました。


ガラスは、二三枚にさんまい

おおきなおとをたててれて

そとちました。


そのガラスもなにもなくなったところを

かっこうが、そとびだしました。


そして、もう、どこまでも、どこまでも

まっすぐにんでって

とうとうえなくなってしまいました。


ゴーシュは、しばらく、あきれたようにそとていましたが、

そのままたおれるように

部屋へやのすみでよこになると

ぐっすりねむってしまいました。

あきれる:to be amazed; to be disgusted)


Kenji Miyazawa: Gauche the Cellist セロ弾きのゴーシュ(2)


(2)


Over the course of four nights, Gauche is visited at his mill house home by talking animals as he is practicing. The first night, a tortoiseshell cat came to Gauche and, giving him a tomato, asked him to play Schumann's "Traumerei". Gauche was irritated, as the tomato was from his garden outside, so he berated the cat and instead played "Tiger Hunt in India". This startled the cat and made it leap up and down in astonishment. The cat ran away in fright.


そのばんおそ

ゴーシュは、なにおおきなくろいものを背負せおって

自分じぶんいえかえってきました。


いえといっても、それは

まちはずれの、かわのそばにある

こわれた水車すいしゃ小屋ごやでした。

まちはずれ:outskirts)
水車すいしゃ小屋ごや:a water mill)


ゴーシュは、そこに、たった一人ひとりんでいて

午前中ごぜんちゅうは、小屋こやのまわりのちいさなはたけ

トマトのえだをきったり

キャベツのむしをとったりして

昼過ひるすぎになると、いつもっていたのです。


ゴーシュがうちへはいって、あかりをつけると

さっきのくろいケースをあけました。


それは、あのチェロでした。


ゴーシュは、それをゆかうえにそっとくと、

いきなり、たなからコップをとって

バケツのみずをごくごくみました。


それから、あたま一度いちどふって

椅子いすすわると

まるでとらみたいないきおいで

ひるに練習れんしゅうしたきょくきはじめました。

とら:tiger)


楽譜がくふをめくりながら

いてはかんがえ、かんがえては

一生懸命いっしょうけんめい最後さいごまでくと

また、はじめから、何度なんど何度なんども、ごうごうごうごう、きつづけました。


夜中よなかも、すぎて

ゴーシュは、もう、じぶんがいているのかどうかも

わからないようになって

かおも、まっになり

も、あかくなり、

ものすごいかおつきになり

いまにも、たおれそうでした。


そのとき、だれかが、うしろの

とんとんとたたきました。


「ホーシュくんか?」

ゴーシュは、ぼけたようにさけびました。


ところが、すうっとして、はいってたのは

いままで、五六回ごろっかいたことのある、おおきな三毛猫みけねこでした。

三毛猫みけねこ:a tortoiseshell cat)


ゴーシュのはたけからとった

半分はんぶんじゅくしたトマトを

とてもおもそうにって

ゴーシュのまえにおろして、いました。


「ああつかれた。

 なかなか運搬うんぱん大変たいへんだ」


なんだと」

ゴーシュがいました。


「これ、おみやげです。

 べてください」

三毛猫みけねこが、いました。


ゴーシュは、

ひるから、ずっと我慢がまんしていたせいか

きゅう大声おおごえ怒鳴どなりました。


だれが、おまえにトマトなどってこいとった。

 第一だいいち、おれが、おまえのもってきたものなど、うか。

 それから、そのトマトだって、おれのはたけのやつだ。

 なんだ。あかくなってないやつをとってきて。

 け。ねこめ」


するとねこ

かたをまるくして

ほそくしていましたが、

くちのあたりで、にやにやわらって

いました。


先生せんせい、そんなにおこると、

 からだわるいですよ。

 それよりシューマンのトロメライをいてみてください。

 いてあげますから」

(シューマン:Schumann)
(トロメライ:ねこがトロイメライ(Traumerei)を間違まちがえてっている)


生意気なまいきなことをうな。

 ねこのくせに」

生意気なまいきな:cheeky)


ゴーシュははらったので、

このねこをどうしてやろうか、とかんがえました。


「いや、遠慮えんりょりません。

 どうぞ。

 わたしは、どうも先生せんせい音楽おんがくをきかないと、ねむれないんです」


生意気なまいきだ。生意気なまいきだ。生意気なまいきだ」


ゴーシュは

すっかり、まっになって

昼間ひるま指揮者しきしゃがしたように

あしゆかみつけて、どなりました。


が、きゅうに、いて

しずかにいました。


「では、くよ」


ゴーシュは、なにおもったのか

にかぎをかけて

まどもみんなめてしまい、

それからチェロをとりだして

かりをしました。


すると、そとから、つきのひかりが、部屋へやのなかへ

半分はんぶんほど、はいってきました。


なにけと?」


「トロメライ、シューマン作曲さっきょく

ねこは、えらそうにいました。

えらそう:self-important)


「そうか。トロメライというのは、こういうきょくか」


ゴーシュは、なにおもったのか

まず、ハンカチを自分じぶんみみあなへ、ぎっしり、つめました。


それから、まるであらしのようないきおいで

「インドの虎狩とらがり」というきょくきはじめました。

り:hunting)


すると、ねこは、しばらく、くびをまげていていましたが

いきなり、パチパチパチッと、まばたきしたかとおもうと

ぱっとがって、ほうはししました。

(まばたき:blink)


そして、いきなり、どんとへ、ぶつかりましたが

ひらきませんでした。


ねこは、

さあ、これは、もう大変たいへん失敗しっぱいをしてしまった

というふうに、あわてました。


ねこや、ひたいから、

ぱちぱち火花ひばなました。

火花ひばな:a spark)


すると

ひげからも、はなからも、火花ひばなましたので

ねこは、しばらく、

くしゃみをするようなかおをしていました。


それから、また

さあ、こうしてはいられないぞ

というように、あわてて、あるきだしました。


ゴーシュは

すっかり面白おもしろくなって

ますますいきおいよくきます。


先生せんせい、もう、たくさんです。

 たくさんですよ。

 おねがいですから、やめてください。

 これからは、もう、えらそうなことをいませんから」


「だまれ。

 これからとらをつかまえるところだ」


ねこは、

くるしそうなかおをして

がったり、まわったり

かべに、からだけたりしました。


しまいには、ねこは、まるで風車ふうしゃのように

ぐるぐるぐるぐる、ゴーシュのまわりを

まわりました。

風車ふうしゃ:a windmill)


ゴーシュも、すこし、まわってましたので、

「さあ、これでゆるしてやるぞ」

と、いながら、やっと、やめました。

まわる:to feel dizzy)


するとねこも、平気へいきかおをして

先生せんせい今夜こんや演奏えんそうは、どうかしていますね」

いました。


ゴーシュは

また、はらったのですが

まるで、なににしていない、というように

タバコを一本いっぽんだして、くわえました。


それから、マッチを一本いっぽんつと

いました。


「どうだい。

 からだ調子ちょうしわるくないか?

 さあ、したしてごらん」


ねこは、ばかにしたように

とがったながしたをベロリとしました。


「ははあ、すこれてるね」

れている:rough)


ゴーシュは、そういながら

いきなり、マッチをしたでシュッとすって

自分じぶんのタバコへ、をつけました。


ねこおどろいて

したを、くるくる、まわしながら、

ぐちのところへって

あたまで、どんと、ぶつかっては、

よろよろとして、またもどって

どんと、ぶつかっては

よろよろ、またもどって

また、ぶつかっては

よろよろ

なんとかして、げようとしました。


ゴーシュは、しばらく面白おもしろそうにていましたが

してやるよ。もうるなよ。ばか」

と、うと

をあけて

ねこがしてやりました。


そして

ねこかぜのようにはしってくのをて、

ちょっとわらいました。


それから、よこになると、

ぐっすりねむりました。


Kenji Miyazawa: Gauche the Cellist セロ弾きのゴーシュ(1)


セロきのゴーシュ(Gauche the Cellist)


宮沢みやざわ賢治けんじ(Kenji Miyazawa)



(1)


Gauche is a diligent but mediocre cellist who plays for a small-town orchestra, The Venus Orchestra, and the local cinema in the early 20th century. He struggles during rehearsals and is often berated by his conductor during preparations for an upcoming performance of Beethoven's Sixth Symphony (the Pastoral Symphony).


ゴーシュはまち映画館えいがかん楽団がくだん

チェロをいていました。

(セロ=チェロ:cello)
楽団がくだん:an orchestra; a band)


けれども、あまり上手じょうずではない

という評判ひょうばんでした。


じつは、その楽団がくだんのメンバーのなかでは

一番いちばん下手へたでした。


だから、いつでも指揮者しきしゃ

いじめられるのでした。

指揮者しきしゃ:a conductor)


ひるすぎ、みんなは

部屋へやで、まるくならんで

今度こんどまち音楽会おんがくかい演奏えんそうする

交響曲こうきょうきょく第六番だいろくばん練習れんしゅうをしていました。

交響曲こうきょうきょく:a symphony)


トランペットは、一生懸命いっしょうけんめいうたっています。

バイオリンも、二色にしょくかぜのように、っています。

クラリネットも、ボーボーとそれを手伝てつだっています。


ゴーシュも

おおきくけて

楽譜がくふつめながら

いています。

楽譜がくふ:sheet music; score)


突然とつぜん、ぱたっと指揮者しきしゃ両手りょうてらしました。


みんな、ぴたりと

きょくをやめて

しずかになりました。


指揮者しきしゃ怒鳴どなりました。

「チェロがおくれた。

 トォテテ テテテイ、

 ここから、やりなおし。はいっ」


みんなは、いまのところのすこまえのところから

やりなおしました。


ゴーシュはかおをまっにして

ひたいあせしながら

やっと、いまわれたところをとおりすぎました。


ほっと安心あんしんしながら、

つづけていていますと

指揮者しきしゃが、また、をぱっとたたきました。


「チェロっ。

 チューニングがおかしい。

(チューニング:tuning)


 こまるなあ。

 ぼくは、きみに、

 ドレミファをおしえているひまは、ないんだがなあ」

(ドレミファ:the musical scale)


みんなは、どくそうにして

わざと、自分じぶん楽譜がくふをのぞきんだり

自分じぶん楽器がっきいてみたりしています。


ゴーシュは、あわてて、

げんわせました。

げん:a string)


これは、じつは

ゴーシュもわるいのですが

チェロもずいぶんわるいのでした。


いままえのところから。はいっ」


みんなは、また、はじめました。


ゴーシュも、くちをまげて

一生懸命いっしょうけんめいです。


そして、こんどは、かなりすすみました。


いい調子ちょうしだとおもっていると

指揮者しきしゃが、おどすような姿勢しせいをして

また、ぱたっとたたきました。


またかとゴーシュは、どきっとしました

が、ありがたいことに

こんどは、べつひとでした。


ゴーシュは、そこで

さっき、自分じぶんのとき、みんながしたように

わざと、自分じぶん楽譜がくふちかづけて

なにかんがえるふりをしていました。


「では、すぐいまつぎ。はいっ」


それ!と、おもってしたかとおもうと

いきなり、指揮者しきしゃあしゆかをどんとんで

どなりしました。


「だめだ。

 このへんは、きょく心臓しんぞうなんだ。

 それが、こんなに、さわがしくて……。


 みなさん。

 演奏会えんそうかいまで、もうあと十日とおかしかないんだよ。


 音楽おんがく専門せんもんにやっているぼくらが

 あんな趣味しゅみでやっているようなまち連中れんちゅうけてしまったら

 一体いったいどうするんだ。


 おいゴーシュくん

 きみには、こまってしまう。

 きみ演奏えんそうには、表情ひょうじょうがない。

 おこるとか、よろこぶとか、そういう感情かんじょう

 まったく、ないんだ。


 それに、どうしても

 ほか楽器がっきと、ぴったりわない。


 いつでも、きみだけ

 ほどけたくつのひもをきずって

 みんなのあとをあるいているようなんだ。


 こまるよ、

 しっかりしてくれないとねえ。


 きみ一人ひとりのために、

 この立派りっぱ楽団がくだん評判ひょうばんがってしまったのでは

 みんなにも、もうわけないからな。


 では、今日きょう練習れんしゅうはここまで、

 やすんで、六時ろくじには、おくれずにボックスへはいってくれ」

(ボックス:楽団がくだん演奏えんそうする場所ばしょ


みんなは、おじぎをして、

それから、たばこをくわえてマッチをすったり

どこかへ、ったりしました。

(マッチをする:to strike a match)


ゴーシュは

そのよごれたはこのようなチェロをかかえて

かべほういて

くちをまげて

ぼろぼろなみだをこぼしました。


が、

しばらくして気持きもちがくと

かれ一人ひとりだけ、いまやったところを、

はじめから、しずかに、もう一度いちどきはじめました。


Soseki Natsume: KOKORO こころ(5)


(五)


先生せんせいは、はかにいた。

それは、先生せんせい友達ともだちはかだ、

った。





わたくし

墓地ぼちはいると

両方りょうほうに、かえでがえてある、ひろみち

おくほうすすんでった。

(かえで:maple-trees)


すると

こうにえる茶店ちゃみせなかから

先生せんせいらしいひとが、た。

茶店ちゃみせ:tea house)


わたくし

先生せんせいちかくまでった。


そうして、きゅう

先生せんせい」と

おおきなこえをかけた。


先生せんせいは、突然とつぜんまって

わたくしかおた。

まる:to stop、あるくのをめる)




「どうして……、どうして……」

先生せんせいは、おな言葉ことば

二度にどかえした。


その言葉ことば

しずかなひる

なに普通ふつうではない調子ちょうし

かえされた。

調子ちょうし:a tone)


わたくしは、きゅう

なんともこたえられなくなった。


わたくしあとをつけてたのですか。

 どうして……」

あとをつける:to follow)


先生せんせい態度たいど

むしろ、しずかだった。

態度たいど:an attitude)


こえ

むしろ、しずんでいた。


けれども

その表情ひょうじょうなかには

はっきり、いえないような

一種いっしゅくもりがあった。

くもり:gloom)




わたくし

わたくしが、どうして、ここへたかを

先生せんせいはなした。


だれはかったのか、

 つま

 そのひといましたか」


「いいえ、

 そんなことはなにも、おっしゃいません」


「そうですか。

 ──そう、

 それは、うはずがありませんね、

 はじめてった、あなたに。

 必要ひつようがないんだから」


先生せんせい

ようやく納得なっとくしたらしい様子ようすだった。

納得なっとくする:to be convinced)


しかし

わたくしには

その意味いみが、まるで、わからなかった。




先生せんせいわたくし

とおりへようとして

はかあいだけた。


依撒伯拉何々イサベラなになにはかとか、

神僕しんぼくロギンのはかとかのそばには、

一切衆生悉有仏生いっさいしゅじょうしつうぶっしょういた

塔婆とうばなどが、あった。

塔婆とうば:stupa)


全権公使何々ぜんけんこうしなになにというのもあった。


わたくし

<安得烈>といた

ちいさいはかまえで、

「これはなんむんでしょう」

先生せんせいいた。


「アンドレとでもませるつもりでしょうね」

って

先生せんせいは、すこわらった。


先生せんせい

これらのはかあらわす

ひと様々さまざま表現ひょうげんたいして、

わたくしほどに

ユーモアをかんじないらしかった。


わたくし

まる墓石はかいしや、細長ほそながして、

あれこれとうのを、

先生せんせいも、はじめは、だまっていていたが、

:monument)


しまいに

「あなたは

 という事実じじつ

 まだ、まじめにかんがえたことが

 ありませんね」

った。


わたくしだまった。


先生せんせいも、それ以上いじょう

なにも、わなかった。




墓地ぼち墓地ぼちあいだ

おおきな銀杏いちょう一本いっぽん

そらかくすようにっていた。

銀杏いちょう:gingko-tree)


そのしたとき

先生せんせい

うえほう見上みあげて、


「もうすこしすると、きれいですよ。

 すっかり、いろ黄色きいろわり

 地面じめん

 金色きんいろ落葉おちばで、いっぱいになります」

った。

地面じめん:ground)
金色きんいろ:golden)
落葉おちば:fallen leaves)


先生せんせい

つき一度いちどずつは、かなら

このしたとおるのだった。




こうのほう

あたらしい墓地ぼちつくっているおとこが、

やすめて

わたくしたちをていた。


わたくしたちは、そこからひだりがって

すぐ、とおりへた。


これから、どこへくか、めていないわたくしは、

ただ先生せんせいあるほう

あるいてった。


先生せんせい

いつもよりはなしをしなかった。


それでも、わたくしには

とくにならなかったので、

ぶらぶら、いっしょにあるいてった。


「すぐ、おたくへ、おかえりですか」


「ええ

 べつくところもありませんから」




二人ふたり

まただまって

みなみほうさかりた。


先生せんせいのおたく墓地ぼち

 あそこに、あるんですか」

と、わたくしいた。


「いいえ」


「どなたのおはかがあるんですか。

 ──ご親戚しんせきのおはかですか」


「いいえ」


先生せんせい

これ以外いがいなにこたえなかった。


わたくし

それ以上いじょうかなかった。


すると、すこあるいたあとで、

先生せんせいが、ふと、そこへもどってた。


「あそこには、わたくし友達ともだちはか

 あるんです」


「お友達ともだちのおはか

 毎月まいつき

 おまいりをなさるんですか」

(おまいりをなさる:to visit)


「そうです」


先生せんせいは、その

これ以外いがいなにわなかった。


Soseki Natsume: KOKORO こころ(4)


(四)


On parting in Kamakura, as Sensei prepares to return home to Tokyo, the narrator asks if he can call on Sensei at his home sometime. He receives an affirmative, though less enthusiastic than hoped for, response. Several weeks after his own return to Tokyo, he makes an initial visit, only to find Sensei away. On his next visit, when he again finds Sensei away, he learns from Sensei's wife that Sensei makes monthly visits to the gravesite of a friend.


東京とうきょうかえったわたくしは、

先生せんせいいえった。

しかし、先生せんせいは、いなかった。





わたくしは、つきわりに

東京とうきょうかえった。


先生せんせいかえったのは

それより、ずっとまえだった。


わたくし

先生せんせいわかれるときに、

「これから、時々ときどき

 先生せんせいいえに、うかがっても

 よいでしょうか」

いた。


先生せんせい

簡単かんたんに、ただ

「ええ、いらっしゃい」

と、っただけだった。


そのときわたくし

先生せんせいと、かなりしたしくなったつもりでいたので、

先生せんせいから

もうすこなにかの言葉ことば

期待きたいしていたのである。


先生せんせい簡単かんたん返事へんじ

わたくしは、すこし、がっかりした。


わたくしは、こういうことで

よく先生せんせいから失望しつぼうさせられた。


先生せんせい

それにいているようでもあり、

また、まったいていないようでもあった。


わたくしは、また、

かる失望しつぼうかえしながら、

そのために先生せんせいからはなれようとは、

おもわなかった。


むしろ、それとは反対はんたいに、

不安ふあんになるたびに、

もっとまえすすみたくなった。


もっとまえすすめば、

わたくし期待きたいするものが、

いつか、まえに、あらわれてるだろう

おもった。


わたくしわかかった。


けれども

すべての人間にんげんたいして、

おなじような気持きもちをったわけではない。


わたくし

なぜ、先生せんせいたいしてだけ、こんな気持きもちになるのか

わからなかった。


それが

先生せんせいくなった、今日こんにちになって、

はじめて、わかってた。


先生せんせいは、はじめから

わたくしきらってはいなかったのである。


先生せんせい時々ときどきしめした

つめたい挨拶あいさつ動作どうさは、

わたくしきらい、わたくしけるためではなかったのである。

ける:to avoid)


かわいそうな先生せんせいは、

自分じぶんちかづこうとする人間にんげんたいして、

ちかづくほどの価値かちのないものだから、めなさい

という警告けいこくあたえたのである。

ちかづく:to approach)
警告けいこく:warning)


ひとのあたたかさをかんじられない先生せんせいは、

ひとをきらまえに、

まず、自分じぶんきらっていた。




わたくしは、もちろん

先生せんせいたずねるつもりで

東京とうきょうかえってた。


かえってから

授業じゅぎょうはじまるまでには

まだ二週間にしゅうかんあるので、


そのうちに、一度いちどっておこう

おもった。


しかし

かえって、二日ふつか三日みっかとたつうちに、

鎌倉かまくらにいたとき気分きぶん

段々だんだんうすくなってた。


そうして、そのうえ

にぎやかな大都会だいとかい空気くうきで、

以前いぜん生活せいかつおも

すっかり気分きぶんわってしまった。


わたくし

みち学生がくせいかおるたびに

あたらしい学年がくねんたいする

希望きぼう緊張きんちょうとをかんじた。

緊張きんちょうかんじる:to feel nervous)


わたくしは、しばらく

先生せんせいのことをわすれた。




授業じゅぎょうはじまって、一カ月いっかげつばかりすると

わたくしこころ緊張きんちょうが、また、うすはじめた。


わたくし

なんだか不満ふまんそうなかおをして

とおりをあるはじめた。

不満ふまん:dissatisfaction)


なに不満ふまんそうに

自分じぶん部屋へやなか見回みまわした。


わたくしは、ふたた

先生せんせいかおおもした。


わたくしは、また

先生せんせいいたくなった。




はじめて先生せんせいいえたずねたとき

先生せんせい留守るすだった。

留守るす:absence)


二度目にどめったのは、つぎ日曜にちようだと

おぼえている。


れたそら気持きもちいいだった。


そのも、先生せんせい留守るすだった。


鎌倉かまくらにいたときわたくし

先生せんせい自身じしんくちから、

いつでも、たいていいえにいる

ということをいた。


むしろ外出がいしゅつきらいだ

ということもいた。

外出がいしゅつする:to go out)


二度にど

二度にどともえなかったわたくしは、

その言葉ことばおもして、

理由りゆうのない不満ふまん

どこかにかんじた。


わたくし

すぐ玄関げんかんらなかった。

る:to leave)


下女げじょかお

すここまったまま、そこにっていた。

下女げじょ:maid)


このまえわたくしたことを

おぼええていた下女げじょは、

わたくしたせておいて

また、なかへ、はいった。


すると、おくさんらしいひと

わってた。


うつくしいおくさんだった。




わたくし

そのひとから、丁寧ていねい

先生せんせいが、どこへったのか

おしえられた。


先生せんせいは、毎月まいつき、そのになると

雑司ヶ谷ぞうしがや墓地ぼちの、あるはか

はなってくのだそうである。

墓地ぼち:graveyard)


「たったいまたばかりで、

 十分じっぷんになるか、ならないかでございます」

と、おくさんは

どくそうにってくれた。


わたくしは、あたまげてから

そとた。


にぎやかなまちほうへ、すこあるくと、

わたくしも、散歩さんぽしながら、

雑司ヶ谷ぞうしがやへ、ってみようとおもった。


もしかしたら、先生せんせいえるかもしれない

おもった。


それで、すぐ

雑司ヶ谷ぞうしがやかってあるはじめた。


Soseki Natsume: KOKORO こころ(3)


(三)


わたくしは、先生せんせい

はなしをするようになった。





わたくしは、つぎ

おな時刻じこくうみって

先生せんせいかおた。


そのつぎにも

またおなじことを、かえした。


けれども、はなしをする機会きかいも、

挨拶あいさつをする機会きかいも、

二人ふたりあいだにはこらなかった。

機会きかい:a chance; an opportunity)


先生せんせいは、一人ひとり

おな時刻じこくた。


だれともはなしをせずに、

一人ひとりで、かえってった。


まわりが、いくら、にぎやかでも、

ほとんど、にしていないようだった。


最初さいしょ、いっしょに西洋人せいようじん

その、まるで、姿すがたせなかった。


先生せんせいは、いつでも、一人ひとりだった。




あるとき先生せんせいが、れいのとおり

さっさとうみからがってて、

いつもの場所ばしょで、

いだ浴衣ゆかたようとすると、


なぜか、

その浴衣ゆかたに、すなが、いっぱいいていた。


先生せんせいは、うしろをいて、

浴衣ゆかた三度さんどった。


すると、着物きものしたいてあった眼鏡めがね

いたあいだから、したちた。

着物きもの:kimono, ふく


先生せんせいは、着物きもの着始きはじめてから

眼鏡めがねくなったことにいたようだった。


先生せんせいは、きゅう

まわりをさがはじめた。


わたくしは、すぐ、

いすのしたへ、くびれて

眼鏡めがねひろった。


先生せんせいは、ありがとう、とって、

それをわたくしからった。




つぎわたくし

先生せんせいあとにつづいて

うみんだ。

む:to jump into)


そうして、先生せんせいと、いっしょの方向ほうこう

およいでった。


しばらくおよぐと

先生せんせいは、うしろをいて

わたくしはなしかけた。


わたくしたち二人ふたりのまわりには、

ひろあおうみ以外いがいには

なにもなかった。


つよ太陽たいようひかりで、

あたりのみずやまが、かがやいていた。


わたくし

自由じゆうよろこびを体中からだじゅうかんじながら

うみなかおどるように

からだ筋肉きんにくうごかした。


先生せんせいは、また

手足てあしうごかすのをめて

そらほういて

なみうえた。


わたくしも、その真似まねをした。


気持きもちいいですね」

と、わたくし

おおきなこえした。




しばらくして、

うみなか

がるような姿勢しせいをした先生せんせいは、

「もうかえりませんか」

と、わたくしった。

がる:to sit up)


からだ丈夫じょうぶわたくしは、

もっと、うみなかあそんでいたかった。


しかし、先生せんせいに、そうわれたとき

わたくしは、すぐ

「ええかえりましょう」

と、こたえた。


そうして、二人ふたりは、また

きしまでおよいでもどった。




わたくしは、それから

先生せんせいしたしくなった。


しかし

先生せんせいが、どこに、まっているかは

まだらなかった。


それから、ちょうど三日目みっかめだった

おもう。


先生せんせい茶屋ちゃやったとき

先生せんせいは、突然とつぜんわたくしかって、

きみ

 まだ、大分だいぶながく、ここにいるつもりですか」

いた。


とくかんがえていなかったわたくし

どうこたえればよいのか、わからなかった。


それで

「よく、わかりません」

こたえた。


しかし

にやにやわらっている先生せんせいかお

とき


わたくしは、きゅうに、はずかしくなった。

(はずかしい:to be ashamed)


そこで、わたくしは、

先生せんせいは?」

いた。


このとき

わたくしはじめて

先生せんせいという言葉ことば使つかった。




わたくしは、そのばん

先生せんせい宿やどたずねた。


宿やどといっても普通ふつう旅館りょかんちがって、

ひろてらなかにある

別荘べっそうのような建物たてものだった。

別荘べっそう:villa)


そこにんでいるひと

先生せんせい家族かぞくではないことも

わかった。


わたくし

先生せんせい先生せんせい、とびかけるので、

先生せんせいは、すこわらった。


わたくし

年上としうえひとたいして、そうくせがある、

って、あやまった。

年上としうえ:senior)
くせ:a habit)


わたくし

このあいだ西洋人せいようじんのことを

いてみた。


先生せんせい

かれわったところや、

もう鎌倉かまくらにいないことなど、

いろいろなはなしをした。


それから、

日本人にほんじんでさえ、あまり交際こうさいをもたないのに、

そういう外国人がいこくじんしたしくなったのは

不思議ふしぎ

と、ったりした。

交際こうさい:friendship)


わたくしは、最後さいごに、先生せんせいかって、


どこかで先生せんせいたようにおもうけれども、

どうしてもおもせない

と、った。


わかわたくしは、そのとき

もしかすると

相手あいてわたくしおなじようなかんじを

っているかもしれない

おもっていた。


そうして、こころなか

先生せんせいの、そういう返事へんじ

期待きたいしていた。


ところが、先生せんせい

しばらくかんがえたあとで、

「どうも

 きみかおおぼえは、

 ありませんね。

 なにかの間違まちがいじゃないですか」

った。


わたくし

一種いっしゅ失望しつぼうかんじた。

失望しつぼう:disappointment)


Soseki Natsume: KOKORO こころ(2)


(二)


わたくしは、海岸かいがん茶屋ちゃやで、

先生せんせいった。





わたくしが、その茶屋ちゃや

先生せんせいときは、


先生せんせいが、ちょうどふくいで

これからうみはいろうとするところだった。


わたくしは、そのとき反対はんたい

れたからだ

みずからがってたところだった。


二人ふたりあいだには

たくさんのくろあたまうごいていた。


特別とくべつ事情じじょうがなければ、

わたくし

先生せんせいかなかったかもしれない。

事情じじょう:a reason; circumstances)


それほど海岸かいがん混雑こんざつし、

それほどわたくしあたまは、ぼんやりとしていた。

混雑こんざつする:to be crowded)
(ぼんやり:absent-minded, vague)


それでも、わたくし

すぐ先生せんせいつけたのは、

先生せんせい

一人ひとり西洋人せいようじんをつれていたからである。

西洋人せいようじん:a Westerner)




その西洋人せいようじんの、

とてもしろはだいろが、

茶屋ちゃやはいると、すぐに、

わたくし注意ちゅういをひいた。

注意ちゅういをひく:to get attention)


普通ふつう日本にほん浴衣ゆかたていたかれは、

それをいで

いすのうえいたまま、

うでんで、うみほういて、っていた。

浴衣ゆかた:yukata)
うでむ:to cross his arms)


かれ

我々われわれのはくさるまたほか

なにていなかった。

(さるまた:short drawers)


わたくしには

それが第一だいいち不思議ふしぎだった。


わたくしは、その二日前ふつかまえ

由井ゆいはままでって、

すなうえすわって、ながあいだ

西洋人せいようじんうみはい様子ようす

ながめていた。


わたくしすわったところは

すこたかおかうえで、

そのすぐちかくに、ホテルがあったので、


わたくしが、じっとしているあいだに、

大分だいぶおおくのおとこ

うみおよぎにた。


しかし、みんな、どううでもも

していなかった。

どう:waist)
もも:thigh)


おんなは、とくからだかくしていた。


そういう様子ようす

たばかりのわたくしには、

さるまただけで

みんなのまえっている、この西洋人せいようじん

とてもめずらしくえた。




かれは、やがて、よこて、

そこにいる日本人にほんじんに、

一言ひとこと二言ふたことなにった。


その日本人にほんじん

すなうえちたタオルを

ひろげているところだったが、


それをると

すぐあたまつつんで、

うみほうあるした。


そのひとが、すなわち、先生せんせいだった。




わたくし

なんとなく興味きょうみがあったので、

ならんでうみあるいて二人ふたり姿すがた

じっとていた。


すると、かれらは

まっすぐに、なみなかはいってった。


そうして、

あさいところで、わいわいさわいでいる、大勢おおぜいひとあいだ

とおけて、


ひとすくないところまでると、

二人ふたりともおよした。


かれらのあたまちいさくなるほど

とおくまでおよいでった。


それから、また、まっすぐにおよいで、

もどってた。


茶屋ちゃやかえると、

みずびずに、すぐからだいて

ふくて、さっさと、どこかへってしまった。




かれらのったあと

わたくしは、やはり、いすにすわったまま

たばこをっていた。


そのときわたくし

ぼんやりと、先生せんせいのことをかんがえた。


どうしても、どこかでたことのあるかおのように

おもわれた。


しかし、いつ、どこで、ったひと

おもせなかった。




そのときわたくし

退屈たいくつくるしんでいた。

退屈たいくつ:boring)


それで、つぎも、また

先生せんせいった時刻じこく

わざわざ茶屋ちゃやまでかけてみた。


すると西洋人せいようじんないで

先生せんせい一人ひとり、やってた。


先生せんせいは、眼鏡めがねをとって

だいうえいて、

すぐタオルであたまつつんで、

すたすた、うみほうりてった。


先生せんせいが、昨日きのうのように

さわがしい海水浴かいすいよくきゃくなか

とおけて、

一人ひとりおよしたとき


わたくしは、きゅう

そのあといたくなった。


わたくしは、みずあさいところをはしって

ある程度ていどふかさのところまでると、

そこから、先生せんせいかっておよいだ。


すると、先生せんせい

昨日きのうちがって、


一種いっしゅ曲線きょくせんえがいて、

みょう方向ほうこうから

きしほうへ、かえはじめた。

曲線きょくせん:curve)


わたくしが、きしもどって

れたりながら

茶屋ちゃやはいると、


先生せんせいは、もう、ちゃんとふくていて、

そとってしまった。